docomo系、au系、softbank系に分かれる各MVNO
各MVNOにおける契約者増加の勢いが止まりません。
MM総研が発表した2016年度上期(2016年4月~2016年9月)の調査結果によると、SIMフリースマホの出荷台数は前年同期比で79.1%増の119万8千台となったということです。また、この伸びは今後さらに加速すると予想されており、2018年には1000万台に達すると述べられています。
実際、各MVNOはここにきて広告宣伝に力を入れ始めており、テレビコマーシャルをはじめあらゆる場面での露出を増加させています。これまで3大キャリアしか選択肢の無かった携帯電話市場に新たな風を吹き込む一大勢力として市場に認識されるようになってきたのです。
ところで、MVNOのビジネスモデルをご存知でしょうか?
格安SIM会社とも呼ばれるこのMVNOは、独自の通信インフラを持っているのではなく、通信回線をキャリアから借りて運営しているのです。通信インフラの構築には莫大なコストがかかり、自社でそのコストを賄うにはよほどの企業体力が無ければ実現不可能です。
しかし、既にある通信インフラを「間借り」する形を取れば、自社インフラを構築せずとも通信サービスを提供することが可能となるのです。
そこで、まずは現在の主なMVNOがどの会社の通信インフラを借りているのか、簡単に表にまとめました。
MVNO名 (またはブランド名) |
利用回線 |
OCN モバイル ONE | NTTdocomo |
IIJmio ※1 | |
DMM mobile | |
DTI SIM | |
BIGLOBE SIM | |
FREETEL SIM | |
LINE モバイル | |
楽天モバイル | |
UQ mobile | KDDI(au) |
mineo | |
IIJmio ※1 | |
Y!mobile ※2 | Softbank |
※1 IIJmioはNTTdocomoとauの両社と契約し2ブランドで運営しています。
※2 Y!mobileは厳密に言えばMVNOではありませんが、比較対象として挙げています。
この表ですべてのMVNOを網羅しているわけでは無いですが、このように多くのMVNO事業者がNTTdocomoの回線を使用しサービスを提供しています。
逆にsoftbank系の回線を利用しているのはグループ会社であるY!mobile1社のみ。
なぜこのようなことになっているのでしょうか。
その理由は、とある会社が総務省に対して提出した申立書に記されています。
日本通信がsoftbankの回線開放を求めて起こした申し立て
2016年9月29日、日本通信株式会社は総務省に対して「接続協定に関する命令申立書」を提出しました。
実は日本通信はsoftbankと回線契約に関する契約交渉中でしたが、softbank側が接続を拒否したとしてこのような申立書を提出したのです。
なぜこのような事態になったのか、それは前章で述べたsoftbank系のMVNOが皆無である理由に集約されます。
実は各キャリアは自社回線を貸し出す際の料金を独自に設定しており、NTTdocomoが最も安い料金で貸し出しているのです。つまり、MVNO各社にとってみれば、ユーザーに安い料金でサービスを提供するためには安い回線を利用する必要があるため、必然的にNTTdocomo回線を利用した会社やサービスが多くなるということです。
またauもNTTdocomoと比べると割高ですが、それでもMVNOにとっては採算ベースに乗る金額で貸し出しています。
そして残るsoftbankですが、3大キャリアの中で最も高く、一説によるとNTTdocomoの3倍以上の貸出料金を設定しているとのこと。
つまり、softbank回線を利用してMVNOを運営しても採算が取れないため借り手がいないという状況なのです。
それともう一つ、SIMロック端末の問題があります。
例えば現在NTTdocomoと契約しているユーザーが、使っている端末をそのままの状態でMVNOに乗り換える場合、NTTdocomo系MVNOなら問題なく乗り換えができます。端末購入時期によっては違約金が発生しますが、技術的には問題ありません。
しかし、softbankの場合は、「端末購入後180日以上経過しており、かつSIMロックを解除した端末」しか受け付けないとしているのです。これはユーザーにとってはかなりの手間となります。
このように、softbank側は、回線を貸し出す条件である料金と手間をあえて「不便」に設定することでMVNOの参入を阻害しているというのが日本通信の主張です。
追記:2017年3月22日に日本通信がソフトバンクのMVNO、「開幕SIM」を開始しました。
そもそも日本通信とはどのような会社なのか?
この申し立てを起こした日本通信と言う会社はどのような会社なのでしょうか?
一般的な知名度はあまりありませんが、実は日本のMVNOとしては先駆者的存在の会社です。
古くはDDIポケットがサービスを提供していたPHSデータ通信に関するMVNOとして、b-mobileブランドでデータ通信カードを販売していた会社です。

個人向け・企業向け双方に販売していましたが、価格の安さが魅力的である一方でバックボーンの貧弱さによる通信速度の致命的な遅さが事業の足を引っ張り、あまり普及しませんでした。
その後3G回線を使ったMVNO事業やNTTdocomoのLTE網を利用したMVNO事業を次々と展開しますが、MVNO市場の競争激化の波に淘汰され、現在はMVNEとして活動しています。
とはいえ、日本通信がMVNOに取り組んだ功績は大きく、NTTdocomoの回線を真っ先に開放させたあたり、先駆者としての実力は備わっていると思います。
総務省が回答した内容とは?

今回の申し立ては、いわば日本通信とsoftbankの契約交渉が難航しているため総務省が仲介に入ったと見る向きもあります。これに対し総務省は「回答には数か月かかる」という見方を示しており、どのような「指導」が行われるかはまだわかりません。
しかし、この申し立ての行方について、各MVNOはかなり関心を持っていると言われています。というのも、各社ともsoftbank回線を利用したサービスが提供可能となれば、それだけ自社の事業の幅が広がるということになるからです。
実際、softbank側は今回の申し立て以降に「交渉内容を今一度見直す」と明言しており、回線貸出に向けた何かしらの進展が見られると思われます。
では、実際にsoftbankの回線が広くMVNOに解放された場合、どのようになるかを見てみましょう。
softbankの回線が解放されるメリットとは?
現在、国内のsoftbankユーザーは一般社団法人 電気通信事業者協会(TCA)の集計によると39,386,100件と発表されています。(2016年6月末現在)
これらのsoftbankユーザーが「利用料金を安くしたい」と考えた場合、現時点ではY!mobileしか選択肢がありません。もしくは一旦NTTdocomoやauに乗り換えた後でそれぞれ対応するMVNOと契約するか、という状況です。
Y! mobile1社でもそれなりに端末や料金の選択肢がありますが、ユーザー側から見るとまだまだであり、かつ競争原理が働かないためユーザー側はメリットをあまり感じない状態です。Softbank系MVNOが多く参入すれば、それぞれ独自の取り組みによりユーザーの選択肢が増加し、市場はさらに活性化します。
また、総務省が推し進める「端末一括0円販売規制」も後押ししています。
キャリアが新規に販売する端末価格を、乗り換え特典や既存ユーザー割引などを使って実質0円などと過度に割り引くことが事実上禁止されたため、キャリアと契約するユーザーの毎月の負担額は増加傾向にあります。従って、これまでのように2年で新しい端末に変更するという流れも徐々に縮小していき、同じ端末を通信会社を変えながら長期間利用する方向へと進んでいくでしょう。
Y!mobile以外にsoftbankの回線を使う事業者は現れるか?
現在、Y!mobile は独自の価格施策や販売施策で徐々にユーザー数を伸ばしています。ということは、仮にsonftbank回線が解放された場合、他のMVNOはY!mobileとの競争市場に参入することになります。
既に一定の販売網や業界ポジションを確立しているY!mobileに太刀打ちできるのか、価格以外の訴求メリットをどれだけ打ち出すことができるのか、かなりヘヴィな戦いになると思われます。
しかし、ユーザー側から見ると、選択肢が増えるのは大歓迎。
NTTdocomo回線を利用しているMVNOを見ると、特に販売端末による差別化が顕著であり、各社個性的で魅力的な端末を次々と送り出しています。将来的にsoftbank回線を利用したMVNOが誕生した場合、同様にまずは魅力的な端末を前面に出しての競争となるでしょう。
2017年のMVNO市場、まずはこのsoftbankの行方を見守っていきたいものです。